第4回 OSSとソフトウェア特許
ーオープンソースの時代なら特許は不要なの?ー
1.オープンソースソフトウェアの近況
ソフトウェア開発において、オープンソースソフトウェア(以下、OSS)を使用する機会が急速に拡大していることは皆さんがご承知の通りです。例えばOSのLinux、WebブラウザのMozillaに始まり、最近では、政府の基幹システムの開発においても、特定のベンダーに依存する体質からの脱却を意図してOSSを採用することを宣言する方も出てきました。また、ガートナーグループも、2010年には業務用ソフトウェア製品の80%以上にオープンソースコードが含まれるようになるものと予想しており、システム開発のインフラとして、OSSはもはや無視できる存在ではありません。
例えば図1には、世界中で最も人気の高いOSSであるWebサーバソフトウェアのApacheの年度ごとの普及率を示します。これは、イギリスのインターネット調査会社であるネットクラフト社が調査したものです。これによると、Apacheは、2位のInternet Information Server(マイクロソフト社)の普及率約20%に比較して70%強と、3倍以上の普及率を示しています。他のWebサーバソフトウェアと比べても、唯一普及拡大傾向にあることが一目でわかります。
図1
一方、オープン化を推進すると宣言しているIBM社、マイクロソフト社等の旧来型のIT企業では、特許取得件数が増加傾向に有ることはご存知でしょうか。例えば図2には、IBM社の年度別米国特許取得件数の推移を示しています。これによると、年度ごとに凹凸はあるものの、2006年度には1994年度の約3倍の特許取得件数となっており、明らかに特許取得件数が増加傾向にあることがわかります。
図2
一部のソースコードを公開したり、オープン化を推進している一方で、せっせと特許取得に勤しむ姿。これは一体、何を意味するのでしょうか。
2.オープンソースソフトウェアの功罪
オープンソフトウェアを用いるシステム開発の話というと、どうも今までメリットが強調されすぎた傾向にあるように感じます。
例えば、GPL* 等のオープンソースライセンスが要求する、「ソースコードの公開、改変、再配布の自由」は、ソースコードの改変の自由を保障することにより機能変更の自由度が増大するというメリットばかりに目が行っているようです。しかし、ライセンス関係に対して法的な調整を十二分に行っていないと、実際には、オープンソースであるが故に逃げ場のない事態に追い込まれる危険性をはらんでいるのです。
例えば全ての団体が特許等の独占権を保有しておらず、ソースコードの公開、改変、再配布の自由を認めているような仮想環境においては、法的関係に神経を尖らせる必要はないでしょう。しかし、現実には多くの企業がソフトウェア関連発明について多くの特許を取得しており、上述のようにOSS推進企業でさえ特許取得件数を増やそうとしているのです。
この場合、第三者の特許に抵触しているOSSが広く普及してしまうと、当該OSSの使用者は、ソースコードの公開により万人に特許侵害の事実を公開している状態となります。したがって、OSSの採否決定時には、第三者の権利を侵害していないことを確認しておく必要があるのです。
3.OSSと特許との関わり方
しかし、現実問題として、OSSのソースコードに含まれるすべての特許の存在を抽出し、第三者の権利を侵害していないことを確認することは不可能でしょう。これに対して例えばGPLでは、特許権不行使を条件とする直接の記載はありませんが、解釈としては頒布者が取得した特許権は行使してはならないものと解釈されています。すなわち、GPLライセンスの締結者は、他の締結者に対しては、たとえ特許を有していても権利行使をすることができません。GPLv3ではさらに踏み込んだ記載となっています。しかし、これとてGPLライセンスの締結者間だけの話であり、ライセンス締結者ではない第三者による権利行使に対しては無力なのです。
IBM社等は、このような状況下でも安心してオープン戦略を推進できるよう、特許を積極的に取得しているのでしょう。すなわち、IBMが提供するオープン環境を使用する限り、IBMの特許権の保護下にあり、第三者による権利行使を受ける心配を排除することができることを売りにしようといった、長期的視野に立った戦略を採っているものと考えられます。
裏を返せば、OSSを用いるから特許が不要、とは絶対になりません。世界中が共通のOSSのライセンサーとライセンシーとの関係にならない限り、特許の問題は必ずついて回るのです。むしろ「GPLは不争条項のついたライセンス契約にすぎない」と割り切って、積極的な特許取得を考えるべきではないでしょうか。取得した特許を用いて第3回で説明した攻めの特許戦略と同様の戦略を取ることにより、OSSを用いた場合であっても、ライセンス締結者でない第三者からの権利行使を未然に防止するための武器を得ることができると考えます。
ある意味で、国際標準化戦略と似ている部分があるかもしれません。ただ、国際標準化の特許戦略では、既存の第三者特許については、その存在を徹底的に調査してから次のステップに進んでいます。OSSを展開するときに、そこまで気を使っているでしょうか?答は明らかですね。安価な環境には、必ず運用リスクが伴います。OSSを採用するか否かは、総合的な判断が要求される時代になっていると言えるでしょう。
*)GPL(General Public License)ジーピーエル
GNUプロジェクトが提唱するフリーソフトウェアのライセンス。ソフトウェアとそれを使用するユーザーに、使用、複製、変更、再頒布などの自由を与えることを最大の目的とし、徹底しているのが特徴。
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北摂国際特許事務所 代表弁理士 福永正也氏
SEとしてのシステム開発最前線での経験を生かし、「日本発のソフトウェアを世界へ」の実現を法的立場からサポートするソフトウェア関連発明の専門家。現在、北摂国際特許事務所代表弁理士として、日本弁理士会ソフトウェア委員会委員(5期連続)、日本システムアナリスト協会会員等を通じて、IT技術と特許との架け橋となるべく奮闘中。派手さを追いかけることなく手堅く攻める手法には多くの信頼を集めている。
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