第2回 今なぜソフトウェアを特許で保護すべきなのか

  • 2007年11月 1日(木) 09:01 JST
  • 投稿者:
    HP委員会

第2回 今なぜソフトウェアを特許で保護すべきなのか
ー 特許の世界における各国の思惑の中で ー

1.ソフトウェアの輸出入
 わが国がソフトウェア輸入大国であることは、IT業界で働いている人間にとっては常識です。例えば最新の調査結果としては、JISA、JEITA 、JPSA* の3団体の所属企業に対する調査結果(図1)が出ています。

 

図1からは、2004年にアプリケーションソフト輸出特需があったためか輸出額が急増していますが、それでも輸入額は輸出額の約10倍強となっています。数字としては様々な見解がなされてはいますが、やはり日本発のパッケージプロダクトが、ほとんど輸出されていないという現実を直視する必要があります。

2.特許権の効力はどこまで及ぶ?

 ご存知の方も多いでしょうが、特許権の効力は、当該特許権を取得した国の領域内にのみ及びます(いわゆる属地主義です)。日本で取得した特許権の効力は米国、欧州等には及びませんし、米国、欧州等で取得した特許権の効力もわが国には及ばないのです。したがって、国際的な事業を展開する必要がある企業各社は、各国それぞれにて特許権を取得しているのです。


 例えばある米国企業が、パッケージプロダクトを日本へ輸出する場合を想定します。米国では、輸出するパッケージプロダクトに関する特許が取得されているかもしれません。この場合、米国でのパッケージプロダクトの製造・販売は特許権者である米国企業が独占排他的に行うことができます。しかし、わが国で特許が取得されていない場合には、当然のことではありますがわが国には米国で取得した特許権の効力は及びません。したがって、日本にて模倣企業が出現した場合であっても、米国で取得した特許権だけでは、日本では何ら権利行使することができないのです。

3.特許大国である米国の動き

 米国は、自国で取得した特許の効力を何とか国外まで及ぼすことを各国に認めさせようと、時代時代に応じた様々な手段を用いてトライしてきました。現在は、知的財産権については基本条約であるパリ条約を中心として各国の法制度が機能しています。各国のエゴが対立する特許の世界で妥協点を見出した国際条約であるパリ条約は、数度の改正を経てほぼ完成の域に達しているため、米国といえども自国に有利となるよう改正することはほとんど不可能であるのが現実です。そこで、新たな秩序を創造すれば良い、とパリ条約とは別に、新たな特許法条約の策定を米国は試みたのです。そして、案の定、特許法条約が各国の思惑の相違により成立が困難になると、今度は権利行使の観点からWTO(世界貿易機関)のTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)により先進国で取得した権利を有効に活用できる道筋を作ろうとしました。農業問題等、様々な国際問題とのバーターで交渉できることから特許大国である日本・欧州の賛同を得やすいと考えたものと推測します。しかし今度は、特許の世界の南北問題、すなわち特許後進国から強い反対を受け、またもや目的を達することができなかったのです。

 最後に米国は、各国の行政に大きな力を及ぼすことができる大企業をターゲットにしてきました。三極(日米欧)特許庁間での合意により、特許の審査結果を相互に認め合うこと、すなわち国際特許の可能性について検討することを非公式に提案しているのです。もちろん、日欧の反対も有り、現状では全く米国の思惑通りにはなっていません。各国特許庁での審査期間の短縮を目的として、手続きを可能な限り共通化して審査における調査結果を融通しあうことに限定された、いわゆる「審査ハイウェイ」のみが米国、英国、韓国(ドイツも予定)との間で試行されていることは周知の通りです。

4.わが国のソフトウェア産業はどうなる?

 ここで、考えて欲しいのは、日本の大企業のほとんどは輸出産業であることです。彼らにとって、外国への特許出願費用は膨大であり、その費用負担は馬鹿になりません。日本で審査され特許になった発明が、同時に米欧でも特許になるのでしたら、その経済的メリットは非常に大きく、米国寄りに立つことは大いに考えられます。

 しかし、審査自体の基準が三極間で大きな差があることも事実です。特に米国では、日本・欧州では特許にならない発明まで特許される傾向があります。したがって、相互に特許を認めることになる上記提案は、技術的な後進産業にとっては、まさに刃以外何者でもないのです。まして、大きく輸入超過となっているソフトウェア産業にとっては、米国で特許になったソフトウェア特許が大挙わが国の特許として認められる事態となった場合、米国企業が保有する特許によって、最悪の場合には事業継続ができなくなる企業が続出することも考えられるのです。

 予防手段は無いのでしょうか。まずは国際的なロビー活動をすべきではあるのでしょうが、大企業が反対の立場に立つとは考えにくい以上、日本政府としても提案を受け入れる余地は大いにあるものと考えます。わが国のソフトウェア産業としては、自衛するしかないのです。

 そのためにも、まずはわが国で積極的な特許出願をしておくべきでしょう。もちろん、自らの事業そのものについて防衛的に出願しておくことは最低限必要です。それだけではなく、第三者であれば、このような技術で代替するだろうと予想される技術まで特許を取得しておくことこそ、真に安全な事業継続の最低条件なのです。

 時代は刻一刻と変わっています。今までのように特許は不要と無視していても特に問題が生じなかった時代はもはや過去と言ってもいいでしょう。特許なんて意味が無い、と突っ張っていても、事業が発展して利益が出始めた途端に第三者に根こそぎ持っていかれる、そんな時代が目の前まで来ているかもしれないのです。私は、日本のソフトウェア企業の技術者個々の技術力は決して低くないと体感しています。すべての技術者に自分たちの技術力に自信を持っていただきたい。そして黒船が上陸する前に、攻防一体となった特許戦略を考えておいて欲しいのです。日本のソフトウェア産業が次世代の基幹産業となるためにも。

*) JISA:(社)情報サービス産業協会
 JEITA:(社)電子情報技術産業協会
  JPSA:(社)日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会

執筆者紹介

北摂国際特許事務所 代表弁理士 福永正也氏
 
SEとしてのシステム開発最前線での経験を生かし、「日本発のソフトウェアを世界へ」の実現を法的立場からサポートするソフトウェア関連発明の専門家。現在、北摂国際特許事務所代表弁理士として、日本弁理士会ソフトウェア委員会委員(5期連続)、日本システムアナリスト協会会員等を通じて、IT技術と特許との架け橋となるべく奮闘中。派手さを追いかけることなく手堅く攻める手法には多くの信頼を集めている。
事務所HP:http://www.hokusetsu-ip.com
 

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