第3回 中小企業導入の肝

  • 2007年11月 1日(木) 09:00 JST
  • 投稿者:
    HP委員会

(4)BSCの構築手順

ア.BSC構築の基本パターン(レベル3企業向け)

 経営理念が明確になり、顧客のイメージが把握できてくると、いよいよBSCの構築段階になる。構築手順としての基本パターンは図表3のとおりである。

 経営者や幹部社員が、戦略発想の訓練を受けており、経営戦略から個別戦術に展開し、単年度計画を立案・実行している企業にあっては、レベル3企業向けの基本パターンに従って構築していくことが出来る。

図表3 基本パターン(レベル3企業向け)

出典 吉川武男教授著 「バランス・スコアカード構築」

イ.視点の課題列挙・集約法(レベル2企業向け)

 中小企業にあっては、レベル3の企業はほとんど見当たらない。レベル3に到達していない中小企業が、基本パターンに従ってBSCを構築しようとすると、参加者の思考回路が停止状態になって発想が出ず、BSCに対して拒否反応が出てきてしまう。実際に、構築支援をしていると、この段階で意見が出なくなって、立ち往生することがあった。BSC構築手順に工夫が必要であることを痛切に感じた。試行錯誤の結果、「レベル2」の「戦略発想が欠如している企業」では、具体的事項からイメージを膨らませていくと、意見が出てくることがわかり、そのノウハウを「視点の課題列挙・集約法」としてまとめた。
 即ち、レベル3の戦略発想では、「戦略目標」→「重要成功要因」→「評価指標」→「アクション・プラン」と、抽象的概念から具体的事項に展開していく演繹法的アプローチをとるが、中小企業では、具体的事項から体系的な戦略を導いていく帰納法的なアプローチをとる方が成果を上げやすいことがわかった。
 経営戦略を立案する場合、SWOT分析により具体的な企業の強み、弱み、市場の機会、脅威をとりあげると、論議は沸騰してくる。さらにSWOT分析結果をクロス分析していくと戦略課題は明確になってくる。しかし、SWOT分析やクロス分析だけですべての課題を見つけるのは困難である。
 SWOT分析で出てくる課題や、顧客分析からくる課題、経営理念からくる課題などを芋づる式に集めて列挙し、そこから集約していくと、早く戦略目標が構築できることがわかった。 
 顧客の視点で紹介したH社では、社長以下全社員8名に集まってもらいSWOT分析とそれにもとづくクロス分析を行い、図表4のような結果を得た。図表4のクロス分析で抽出された課題を、取り出して「図表5 課題列挙表」に記載し、クロス分析の根拠をS、W、O、Tの欄に○印で記入した。

図表4 H社のSWOT分析とクロス分析

 更に、H社の経営理念は、「私たちは、お客さまに感謝し、お客様の感動と喜びの行動を創造したします。」と表明されているので、「感動していただけるように行動する」ことは最大の課題であるので、課題列挙表に記載した。
 また、顧客分析の際に導き出された「点検・修理品質の高いこと」、「点検・修理の納期を守ること」は、顧客の視点として大切なので、課題列挙表に記載した。

図表5 課題列挙表

 人材と変革の視点に関しては、H社社長が常々社員に求めている「ひとり経営人(経営的意識をもって自ら変革していく人)」の育成と、個人個人のチームワークの醸成が必要なので、課題列挙表に追加した。
 最後に、財務の視点は、利益の増大をもたらす売上高の増大とコストの削減を記載した。
 このように、課題をいろいろなアプローチから芋づる式に引き出して、課題列挙表に記載してみると、大体が4つの視点で分類できることがわかったので、「財務」、「顧客」、「業務プロセス」、「人材と変革」の各視点に分類する欄を設けて、○印で分類した。
 「図表5 課題列挙表」で列挙した課題を、4つの視点でソートしなおしたのが、「図表6 課題集約表」である。

図表6 課題集約表


(注)戦略:戦略目標  要因:重要成功要因の略

 課題集約表に視点別課題を記載できたら、次は、それぞれの視点の課題の中でから、戦略目標と重要成功要因に分類していく。「図表6 課題集約表」では、戦略目標と重要成功要因の2つに分けるとしているが、現実には、課題の中に具体的なアクションプラン・レベルの課題も入っているので、次のような評価基準で、戦略目標、重要成功要因、アクションプランに分けていく。

戦略目標 体系的であり、包括的である。
重要成功要因 戦略目標を実現するための重要な要因である。
アクションプラン 具体的な行動を促すものである。


 戦略目標を選定する際の留意事項として、関係者全員が参加して検討するのではなく、経営者が、コンサルタントと推敲しながら決定する方がよいと感じた。
 何故なら、戦略目標は、ボトムアップではなく、トップダウンで決めるものだからである。
 H社の戦略目標は、最終的につぎのようにまとまった。

視点

戦略目標

財務の視点 利益の増大、売上高の増大、コストの削減
顧客の視点 感動、信用
業務プロセスの視点 納期、品質
人材と変革の視点 ひとり経営人、チームワーク

執筆者紹介
おのえ経営事務所 尾上康之
繊維メーカーを定年退職後、2001年おのえ経営事務所を開設。大阪豊能地域中小企業支援センターでサポータとして6年間、中小企業の経営革新支援に従事している。経営戦略立案プロセスにバランス・スコアカードを活用すると、経営者の理解を得やすいことを体験したことをきっかけに、コンサルタント仲間でBSC研究会を立ち上げ、実践研究を継続している。ITコーディネータ、中小企業診断士、物流技術管理士、CPCCコーチ。

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